人手不足が招く“自動化バブル”、現場が抱える新たなリスクとは
【2025年6月・東京】
日本の製造業や物流業界を中心に、深刻な人手不足が続くなかで自動化機器の導入が急速に拡大し、一種の“自動化バブル”が発生している。しかし、現場では導入したロボットや自動化装置を維持・管理するための技術者不足という新たな課題も浮き彫りになっており、持続可能な自動化への道のりは決して平坦ではない。
経済産業省の調査によれば、2024年度の製造業における正社員の有効求人倍率は1.4倍を超え、依然として労働力確保が困難な状況が続いている。特に熟練工の減少が顕著であり、若手技術者の育成が追いつかない現状が背景にある。このため、多くの企業が人手不足の解消を目的にロボットや自動搬送車(AGV)などの導入を進めている。
例えば、ある大手自動車部品メーカーは、工場内の組み立てラインに協働ロボットを多数導入し、単純作業の自動化を図っている。しかし、現場からは「ロボットの保守点検やトラブル対応を行う技術者の確保が難しく、結果として機器が稼働停止する時間が増えている」との声も上がっている。この状況は、導入の勢いと現場の人材不足とのギャップを象徴している。
また、物流業界でも同様の傾向が見られる。国内最大手の物流企業は、倉庫内のピッキング作業に自律走行ロボット(AMR)を導入して効率化を進めているが、操作スタッフやメンテナンス担当者の人材不足に直面している。特に、システムトラブル時の迅速な対応が難しく、一時的な業務停滞を招くケースが散見されている。
こうした課題を受けて、業界では「半自動化」や「協働ロボット」の導入が注目されている。完全自動化よりも人と機械が適切に連携する仕組みを作ることで、現場の負担を軽減しながらも柔軟な対応が可能になるという狙いだ。加えて、AIを活用した故障予知や遠隔保守サービスの導入も徐々に広がっている。
しかし、技術革新だけでは問題を完全に解決できない面も多い。技能実習生制度の見直しや外国人労働者の受け入れ制限強化により、従来頼ってきた労働力の確保が厳しさを増していることも背景にある。このため、企業の現場担当者は「機械の導入だけでなく、現場で使いこなせる人材の育成と確保が最優先課題」と語っている。
政府もこうした状況を踏まえ、製造業向けの技能教育やデジタル人材育成の支援を強化している。経済産業省は今後数年間で約1万人規模のロボット保守技術者の育成を目指し、産学官連携の研修プログラムを拡充する計画だ。
今回の動向は、労働力不足が引き起こす社会構造の変化を象徴するものであり、日本企業の競争力維持に向けた喫緊の課題となっている。自動化の波に乗る一方で、現場の技術者不足というリスクをどう乗り越えるかが、今後の成否を大きく左右するだろう。
