ロボットは“冷たい”存在か? 現場職員と高齢者が語るリアルな受け入れ状況

ロボットは“冷たい”存在か? 現場職員と高齢者が語るリアルな受け入れ状況

【2025年6月・埼玉県】
高齢化が進む日本社会において、介護現場での人手不足は年々深刻化している。これに対応する手段として注目されているのが「介護ロボット」だ。移乗支援や見守り、排泄予測など多様な機能を持つロボットが次々と現場に導入されている一方で、「機械に人の介護ができるのか」「利用者の心に寄り添えるのか」といった声も少なくない。実際にロボットを導入している施設の現場からは、導入当初の戸惑いと、そこから始まった新しい信頼関係が垣間見える。

埼玉県内の特別養護老人ホーム「つつじ苑」では、2024年より移乗支援ロボットと見守りセンサーを導入している。職員によれば、導入初期には利用者の多くがロボットに対して不安や違和感を口にしていたという。「最初は『なんだこれは』『こんなものに任せて大丈夫か』という反応が多かったです」と語るのは、介護職歴10年の佐藤美咲さん。「でも毎日使っているうちに、ロボットの動作が丁寧で、安全性が高いことがわかってきて、利用者さんの表情も和らいできました」と続ける。

利用者の一人である87歳の田中義男さんは、当初ロボットとの接触を避けていたが、今では朝の移動介助で必ずロボットを使っているという。「初めはなんか冷たくて嫌だった。でも腰も痛くならないし、転びにくいから安心できる。何より、職員さんが横で一緒に操作してくれるから怖くない」と語った。

ロボットの導入により、職員の身体的負担は確実に軽減されている。これまでは二人がかりで行っていた移乗動作も、今ではロボットが主な動作を担うため、一人でも対応可能な場面が増えた。「腰への負担が減って、職場を辞めようか迷っていたスタッフも続けられるようになった」と、施設長の山本健一氏は語る。「ただし、ロボットが全てを解決するわけではありません。結局のところ、最後は“人の手と心”です。ロボットはあくまでそのサポート役にすぎない」とも指摘する。

現場では、ロボットを単なる「機械」として扱わず、ひとつの「介助の仲間」として捉える文化が育ちつつある。職員がロボットに名前をつけたり、利用者と一緒に「今日はこの子が手伝ってくれるよ」と話しかけたりする光景も珍しくない。こうした工夫により、ロボットと人との心理的な距離が縮まり、受け入れがスムーズになっているという。

一方で、課題も残る。機械的な故障時の対応、夜間の緊急時におけるマニュアル不足、そして高齢者に対する操作教育の難しさなど、現場の運用には一定の学習期間と改善サイクルが必要だ。「導入して終わりではなく、どう現場に馴染ませていくかが鍵です。最初の数ヶ月が一番大事」と、現場スタッフは語る。

国や自治体は、介護ロボット導入を促進するための補助制度を拡充しており、2025年度には中小規模施設を中心にさらに導入が加速する見通しだ。しかし、制度や資金だけでは乗り越えられない「感情面でのハードル」への対応が、今後ますます重要となるだろう。

高齢者が安心して日常を過ごすために必要なのは、効率化だけでなく、心の通う介護である。ロボットがその支え手のひとつとして受け入れられるためには、技術だけでなく、人との関係性をどう築くかが問われている。冷たいと思われた機械が、信頼を得て“介護の仲間”になるまでの道のりは、今まさに始まったばかりだ。

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