ロボット導入、最大の障壁は「初期コスト」

ロボット導入、最大の障壁は「初期コスト」

【2025年6月・東京】
国内企業のロボット導入が進む一方で、最大の障壁として「導入時の初期コスト」が依然として企業判断に大きな影響を与えていることが、民間調査機関による最新のアンケートで明らかになった。

この調査は、QNXソリューションズが2025年5月に実施したもので、製造・物流・小売・医療など多様な業種の経営者および技術担当者およそ650人を対象に行われた。回答者の約62.4%が「初期費用が高いことが最大の障壁」と答えており、次いで「運用・保守の人材不足(43.1%)」「社内の技術的理解不足(37.9%)」と続いた。

特に中小企業では、ロボット導入にかかる初期投資が重い負担となっており、費用対効果の不透明さが導入判断を躊躇させている実態が浮き彫りとなった。ある中堅製造業の経営者は、「導入によって得られる業務効率の向上は理解しているが、初期費用を正当化するための明確な数値が出せず、社内での説得材料が不足している」と現場の声を語る。

一方で、大企業を中心に、ロボット導入は単なる自動化を超えた“戦略的投資”として位置づけられており、AIやIoTとの連携を前提としたスマートファクトリー化が進行している。実際に、大手物流センターではAMR(自律走行搬送ロボット)を中心とした省人化が着実に進み、工場ラインでは人と協働可能な軽量ロボットの導入が加速している。

こうした背景を受けて、ロボットメーカー各社も導入支援策の強化を進めている。近年では、月額制による「サブスクリプション型サービス」や、短期間のトライアル導入プランなど、初期負担を軽減する取り組みが拡大している。また、自治体や経済産業省が提供する各種補助金制度の活用も広がっており、公共支援を活用した導入事例も増加している。

調査では、ロボット導入に対する意欲そのものは着実に高まっていることも示された。「今後3年以内に何らかの形でロボット導入を検討している」と回答した企業は全体の73.6%にのぼり、2022年の同調査結果と比べて8.9ポイントの増加を記録した。特に医療・介護分野では、人手不足の深刻化を背景にロボットへの期待が高まっており、自律移動や非接触サポートを活用した具体的な導入計画が進んでいる。

QNXの調査担当者は、「労働人口の減少が続くなか、業務の自動化は避けられない課題となっている。ただし、導入後に本当に効果が出るかどうか、現場の不安を払拭するにはより踏み込んだサポート体制が必要」と指摘する。実際に、導入段階だけでなく、導入後の教育・保守・改修を含めた“運用フェーズ”までのトータル支援を求める声が増えているという。

今後は、単に省人化だけでなく、品質の安定や作業データの可視化など、多角的な効果を数値で示すことが求められる。ベンダーと企業の協働によって、導入から運用・改善までを一体で設計する体制が構築されることで、ロボット技術の社会実装はより現実的なものになると期待される。

ロボット技術が社会課題の解決手段として期待されるなか、いかに“費用の壁”を乗り越え、導入の障壁を取り除くかが、日本の産業競争力に直結する重要な鍵となっている。